第14章 今まで通りじゃいられない

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大真面目に首を捻るほどの事ではない。わたしは肩を竦めて、吉木さんに持ってもらっていた荷物を受け取った。 「簡単ですよそんなの。押し一点張りです。あいつはね、とにかくめげないんですよ全然」 「なるほど。ジュンキみたいにああやってさっさと引き退ったら駄目ってことだね。そこであっさり終わっちゃうもんな」 感じ入ったように呟くの止めて。 「駄目なんて言ってないですよ。立山くんはそれでいいじゃないですか。お互い必要があればドアは開けるし、なければ閉めておく。単純な話でしょ」 いつまでもどっかりと部屋の中で落ち着かないでほしい。荷物広げらんないじゃん。 わたしは吉木さんに手をひらひら振ってみせた。 「吉木さんもご自分のお部屋へどうぞ。ここはもう大丈夫ですよ。…劇場、もう今日搬入始まるのかな?」 吉木さんは頭を傾げた。 「いや、明日朝じゃないかな。行くのは明日からでいいって言われてるでしょ?」 「はい」 わたしは頷いた。 「じゃあその通りで大丈夫だよ。今日はもうこの後夕食食べて、明日に備えて早めにゆっくり休むといいよ。…あとで迎えに来るから。三人で食事行こうね」 「あ、はい、お願いします」 素直に頭を下げるわたしに、ふと思い立ったように付け加えるその台詞が余計。 「…あ、勿論、二人で行ってもいいんだよ、食事。せっかくだから大阪の夜の街をそのままデートして、とかは?」 出たな早速、お見合いばばあめ。わたしは思いきり肩を竦めてみせた。 「…いえ三人でお願いします…」 実際、続き部屋だから特にどうということはなかった。俳優陣はそちらのペースで行動するし、舞台装飾のスタッフとは現場で顔こそ合わせるが一緒に行動することはない。慣れてくると先輩方が食事や飲みに連れて行ってくれるようになり、部屋には寝に帰るような状態でもあったし。ただ、飲みや食事の終わり時間には必ず吉木さんが迎えに来るので、あまりに遅くなることも酒の量を過ごすこともなかった。 「あの人、立山順基のマネージャーだよね?本当に熱愛中なんだね、いいなぁ」 と感に堪えたように言われるにつけ、あまりの現実とのギャップになんともむず痒い。余程そこまでしなくて大丈夫です、と訴えようかと思ったが、立山くんの心配の元がどこにあるかよくわかってるだけに無碍にもできない。わたしなんかに変な気起こす人なんかいませんよ、とは言え正直あの時だってそう考えていたのだ。
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