第14章 今まで通りじゃいられない

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「お酒、あるの?買ってこようか」 『お前に行かせるわけないだろ、こんな時間に。ちゃんと幾らかこっちにあるよ。それにお前、そんな沢山飲まないだろ。充分だと思う。…でさ。そこのドア、開けてよ』 「はぅ。いいですよ、別に」 わたしはさくさくと白い扉に近づいて、ガチャリと内鍵を開けた。特に拘りはない。ただ今この時まで開ける必要がなかっただけだ。まあ、正直部屋の外に出て隣の部屋をノックして入れてもらえばいんじゃないの、と思わなくもなかったが。 向こうからもチャ、と音がして扉が開く。寛いだ格好の(有り体に言うとTシャツに短パン)立山くんが顔を出す。既にシャワーを浴びたのか、髪も雑にボサッててなんか子どもっぽく可愛らしい。 「そっち?それとも、こっち?」 「こっち来いよ。酒もこっちにあるし」 それもそうか。わたしは素直に彼の部屋に入っていった。…ふぅん。 「やっぱさすがにこっちの部屋のが広いや」 感嘆して物珍しげに見回すと、彼はちょっと面倒くさそうに答えた。 「お前がこっちの部屋使っても別に俺は構わなかったけど。そうする?今からでも」 「いや意味ないって。そういうことじゃないです。単にこういう部屋、あんまり見たことないから」 遠慮なく広々としたソファに座り込む。テーブルの上に缶ビール数本と酎ハイ、ワインの小瓶まであった。 「わたし、殆ど飲まないよ」 「わかってる。付き合ってくれるだけでいいよ。ちょっとクールダウンしたいんだ。一人より相手がいた方がいいし」 そんなもんかな。と思いつつ、本当に珍しいことなのでわたしに否やはない。いっつもこの人にはしてもらうばっかで、わたしのしてあげられることなんか全然ないんだし。こんなことでよかったら。 彼がワインの瓶を開けたので、わたしもそれにお相伴する。グラスにほんの少し。わたしの手を煩そうに断って、手酌で自分のグラスに注いだ。 「立山くん、結構飲める方?」 「飲み始めたのは最近だけど。生まれつきアルコール耐性があるみたいだな。割と飲んでもそんなに酔わない」 「はは、じゃあいっぱい飲まないと酔えないんだね。お酒代かかってしょうがないじゃん」 「そうとも言うけど」 ちょっと彼が言葉を飲み込んだような雰囲気を感じる。きっと、お前は、と問いかけて止めたんだろうな。あの時お酒がからんだことは知ってるから。わたしは気にせず続けた。
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