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「わたしは酒量の限界がわかんないんだよね、自分の。そこまで徹底的に飲んだことないから」
「お前、酒の味って好きか」
唐突に問われ一瞬考える。
「…うーん、味そのものか。特にそれほどでもないな」
そう言いつつひとが用意してくれた酒をちびちび飲むわたし。立山くんは肩を竦めた。
「じゃあいいんじゃないかな、限界まで飲まなくても。なにも」
…まあそうか。
彼は全く変わらない顔色でグラスを口に運びながら呟くように話す。
「飲んで美味しいと思うとか、アルコールで酔いたいって気持ちがあるのに思い切り飲めないんだったら気の毒だと思うし、こういう二人での機会に徹底的に付き合ってやってもいいんだけど。飲むことそのものが特に好きでないなら、無理に限界確認する必要もないと思うよ。そんなこと知らなくても生きてける。大したことじゃない」
「なるほど」
わたしはグラスに視線を落としてしばし考えた。よく自分の酒量の限界知っといた方がいいとかは聞くけど。確かに好きならともかく、ほっといてもあんまり量は進まないもんな。
珍しく立山くんの目がちょっと悪戯っぽく光ったような気がした。
「勿論、せっかくだから今、限界確かめてもいいけどさ。その場合これじゃ足りないな。吉木に頼んでもっと買ってきてもらうか」
「はは、いいよ、大丈夫。演者さんは明日休みだけどわたしらは撤収があるもん。二日酔いじゃ話になんないよ」
「絶対いるよ、明日。二日酔いの奴」
「違いないな」
わたしは明らかに酒好きの先輩何人かの顔を思い浮かべ、少し声をあげて笑った。
立山くんはそれを見てふと表情を改め、声の調子を落として尋ねてきた。
「…お前、俺のこと怖くないか」
「は?」
わたしはグラスを握ったままぽかんと口を開けた。あまりに突然過ぎて文脈が読めない。
わたしの目をまっすぐ見つめる彼の表情はあくまでも生真面目だ。
「こうやって二人だけで密室で酒飲んでて。…俺がお前になんかするとは思わないの?何で俺のこと信じられる?」
「何でと言われても」
途方に暮れる。ものすごく正直に言うと、考えたこともなかった、全然。でもあまりに真剣に問われたので、もうちょっときちんと答える必要があるのかもしれない。
わたしは何で立山くんを警戒しようと思わないんだろう。
「…あなたは絶対わたしを傷つけないから」
しばし考え込んだあと、慎重に口にした言葉に彼は胸を突かれたような顔をした。
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