第14章 今まで通りじゃいられない

10/23
前へ
/40ページ
次へ
そんなことする人と思ってなかったから反応が遅れる。慌てて手を伸ばすわたしに構わず表示に目を走らせた。 「…そっか、瀬戸さんLINE使わないのか。…タクは新学期が始まって五年生になりました、か。そりゃそうだな。…何これ。世間話?」 「勝手に読まないでよ」 メールでVIP登録してあるのでロック画面に数行表示されてしまう。そりゃ、近況報告で、大した内容じゃないけどさ。口に出して読み上げることないじゃん。 口を尖らせて憤慨するわたしに構わず、更に下の表示に眉を顰める。 「ふん、LINEも来てるじゃん。やっぱあいつか。毎日送ってくるんだろ、どうせ」 わたしは肩を竦め、彼の手から携帯をさっさと奪い取りさくさくとロック解除してLINEをタップしあっという間に返信を済ませた。 「すごい早業。…文面読んだ?」 「ざっとスクロールしたから。大体わかる。返信はね、いつも同じだから。『元気です』か『無事だよ』」 スタンプじゃないだけマシだと思え。 「瀬戸さんのは読まないの?返信は?」 抜け抜けと痛いとこ突っ込んでくる。わたしは目線を逸らして携帯をポケットに突っ込んだ。 「…後で読む」 一人になったら。寝る前にゆっくり読んで、返事の文面を考える。二、三日に一度ずつくらいの頻度でやり取りしているが、それが今のわたしの至福の時間だ。 ここでこの人の前で読むわけにいかない。 わたしの素知らぬ顔をしばらくまじまじと見ていたが、ややあって大袈裟にため息をつく。思うにこの人も大概酔っている。普段こういう感情表現をする人じゃないもん。 「なんかさ、俺、同情に堪えないよ、最近。竹田のこと」 「ええ~、そうなの?」 わたしの驚き方も大袈裟か。やっぱり少しアルコール入ってるからな。 「立山くんはあいつのこと嫌いなのかとばっかり」 彼は何故かへんなものを飲み込んだような顔をした。 「…別に嫌いとかじゃないよ。鬱陶しい奴だなぁと思ってるだけで。たださ、可哀想な男だなと。あんなにあからさまに純情捧げてるのに報われなくて」 「え、そうかな」 わたしは正直に首を傾げた。だって、そりゃあいつのことを好きとは言わないけどさ。こう言ったら何だけど、身体だけはいくらでも自由にさせてあげてるし、他の人にはわたしに指一本触れさせてもいない。奴の独占状態だ。あ、こないだ立山くんとキスしちゃったか。でもあれは非日常の中の特殊なシチュエーションだから。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加