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例によってわたしと立山くんの前に立ち、過剰にてきぱき、すたすたと足早に誘導する吉木さん。わたしは肩を竦めて大人しく彼と立山くんの間を歩く。さっさとわたしの部屋番号教えて鍵下さい、と敢えて言う気もしない。
どうせまた続き部屋でしょ。もう慣れたからあんまり気にならない。ああいう使い方ならドアがあるのもそんなに悪くもないし。
そう考えたわたしは激甘だった。
「今回は、ここ」
短くそう言ってあるドアの前に立つ。またもや上層階の、何だかゆったりした間隔の空いた扉の中のひとつだ。吉木さんが振り向いてわたしを見た。
「…どうぞ。開けて」
「へ?あたし?」
渡されたカードキーを握って戸惑う。何でわたしの部屋からなの?それとも今回は立山くんは隣じゃなくて、だいぶ離れてるとかなのかな。戸惑いつつも促されるままに開錠する。
「…うっ」
開いたドアの向こうはすぐには見渡せず、何の気なしに数歩入り込んでから、目の前の情景に絶句した。
すごく広い。前回の比じゃない。
でも、この前の大阪の部屋だって、続き部屋だったことを思えば併せて相当の面積があった筈だ。今回はひと部屋なんだから、そう考えるとこのくらいで同等なのかも。
…そう、ひと部屋。二人で。
「吉木さん。これ、何ですか」
わたしは荷物をひとまず床に置き、呻いた。彼はカーテンを開けて窓の外の光景を確かめながら平然と答える。
「ベッドだね、うん」
「…何で二つあるんですか、この部屋に」
「それはね、ツインルームだからだね。デラックスツイン。ゆったりしてていいでしょ?」
「…吉木さん」
気がつけば、立山くんも平静な顔つきでさっさと入室し、荷物を片付け始めている。わたしは黙らなきゃいけないのか、これ。こんなの普通、大騒ぎする方がおかしい?いやそうじゃないだろ。
「すみません、さすがにこれはちょっと」
「何で?ジュンキに襲われると思ってるの?」
「そ・う・で・は、ないです」
ゆっくり一文字ずつ発音してみせる。遊びに来てるんじゃないんだよ。これは仕事でしょ。
「俳優さんの休息の邪魔したくないんです。舞台装飾の方が終わり遅くなることもあるし、もし立山くんが既に眠ってるとこに入っていって起こしちゃったりしたら…。それに、演出家さんやプロデューサーさんとか、演者さん同士でお付き合いで飲む日もあるでしょ」
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