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彼のことを警戒してるわけじゃない、とわかって欲しくて勢い説明が止まらなくなってる。
「その翌朝、わたしが起きて仕事に行く気配で立山くんの安眠を妨げたくない。充分ゆっくり眠りたいだろうと思うし…、わたしはスタッフなんだから、演者さんが気持ちよく仕事できる環境を整えるためにいるはずなのに。彼の足を引っ張りたくないんですよ」
「大丈夫だ、そんなに気にする必要ない。自慢じゃないけど寝つきはいいし。万が一途中で目が覚めても、すぐにまた寝直せる。お前が気に病むほどデリケートじゃないよ」
まさかの立山くん本人が口を挟んできた。我関せず、とだんまりを決め込むと思ってたのに。
「でも」
どう考えても邪魔だよ、わたし。情けない顔で黙り込んだのにちょっと同情したのか、少し優しい声で吉木さんが改まって話しかけた。
「ごめんね、ちゆちゃん。どうやら今回のホテル、続き部屋がたまたま一個も空いてなかったみたいで」
それ、必須条件じゃないですよ。
「…だったらツインてのがわからない。普通に別々の部屋でいいと思う」
「僕が決めたんじゃないんだよ。主催者側で気を回してくれてるんだってば」
いやこっちの意思も確認してくれよ。
「きっと彼女と一緒の部屋で毎晩眠れたらこいつも安らげると思ってしてくれたことなんだよ。誰も悪気はないんだからさ。ここはひとつ」
拝まれると、それもなんか。わたしが我儘言ってるみたいじゃないですか。
「わたしがやだって言ってるんじゃないんですよ。立山くんの仕事の邪魔したくないってだけで」
「俺は嫌じゃない、別に。だったらこの話はこれで終わりってことだな」
珍しくきっぱりと話を締め括ろうとする立山くん。きっとこういうことでごちゃごちゃ揉めるのが嫌いなんだ。わたしはその意を汲んで、渋々頷いた。
「…はい」
「まぁでもちゆちゃん、まだしもダブルじゃなくてよかったじゃない。それだとさすがに貞操の危機だよね、はは。こいつも見かけに寄らず結構なケダモノだからね」
…わたしはギッ、とお気楽な口調で茶々を入れてきた吉木さんを睨みつけた。わかってるんだから、絶対、主催者のせいにして、事務所の意志が入ってるんでしょこれ。自分とこのタレントの貞操を何だと思ってるんだ。いやわたしは襲わないけど、彼を。そんなつもりはこれっぽっちもない。
でも、そうなればいいと思ってるのが見え見えですよ。どういう方針か知らないけど。
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