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事務所さんの方でもできたら彼の意思をすっ飛ばさないで、その気持ちを大事にしてあげてほしいと思うんだけど。つき合う女の子くらい彼に自分で決めさせてあげればいいのに。
さっさと片方のベッドを取り荷物の片付けを始めた彼の割り切りを見習い、わたしも小さく息をついて自分のベッド傍に鞄をどさっと置いた。
さすがに相部屋は、大阪の時の続き部屋とはだいぶ勝手が違った。
やはり一番気を遣ったのは寝起きと部屋の出入りだ。劇場に入るのはわたしたちスタッフの方が早いから、前夜遅くまで飲んでいた立山くんがまだ眠ってるうちに支度をして出なければいけなかったりする。そこは出来る限り注意を払った。一方で立山くんが既に寝ているところに入っていって起こすようなことにならないよう、先輩方との食事や飲みも今までより更に早く切り上げるようになった。わたしが先に寝てるとこに彼が入って来て起こされるのは全然へっちゃら、そんなことは何でもない。彼の迷惑にさえならなければ。
そうしてるうちに何だかペースが掴めて、やっとわたしも落ち着いてきた。こういう特別扱いなしに一般的なスタッフとして宿泊する場合、結局知り合って日の浅い先輩の社員さんと同部屋になるわけだし、そこでだって結局気を遣う。準主演クラス俳優の仕事の邪魔になってはいけない、という緊張感を除けば、立山くんの方がわたし的には気が置けないくらいのものだ。あとは一応異性同士なので、入浴と着替えに神経遣う必要があるって程度。
それに一週間の公演なんて、言うほどもなくあっという間に終わってしまう。
「…あ」
楽日の前日、いい加減飲み飽きたのとどうせ最終日は飲むに決まってるので食事だけで早々に切り上げて部屋に戻ったわたしは思わず声を漏らした。カードキーで入室すると、ベッドで既に立山くんが寛いでいたのだ。わたしの声に顔をあげた。以前にも見た、風呂上がり寝る前の少し子どもっぽい彼。
「早いですね。今日は」
「明日楽日だから。どうせ飲み倒すだろ。今日くらいゆっくりしたいと思って」
「同じだ」
わたしは手持ちのバッグを置いて、荷物の中から着替えを取り出してさっさと浴室に向かった。
「すいません、お風呂済ませます。手早くするので」
一応トイレと洗面所は別なので、特に問題はないとは思うけど。背後から立山くんが声をかけてくる。
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