第13章 わたしには甘すぎる

6/17

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「…ごめん、そうだよな。俺はいいけど、ちゆのお腹をちゃんといっぱいにしてやらなきゃ。お前こそそれ以上痩せたらなくなっちゃうよな。ただでさえ今日も滅茶滅茶働いたんだろうし」 「そうでもないよ。まだまだ、体験するんで精一杯だもん。役に立つまではいかないよ」 「そんなの当たり前だよ。そんな簡単な仕事なわけないじゃん。肩肘張るな、所詮学生のインターン研修だろ。将来への貯金してるんだと思っとけばいいよ」 ずけずけ言い放つが口調は優しい。そう言えば、こいつもスタイリスト事務所でインターン研修の経験があるんだよな。その時にいろいろ体験して思うところがあるのかもしれない。 …そう言えば、あの時は余計な心配をかけてたから。きっと研修に百パーセント集中できなかったんだろうな。当時は何を考える余裕もなかったけど、今思うと本当に申し訳ない。 こんな大変な時に、誰かのことで頭おかしくなるくらい心配なんかしてたら何にもできないもん…。 「本当に調子狂うなあ、今日は」 ホテルを出て見つけた朝まで営業してる居酒屋に着くまでずっと、腕を絡めて歩いたことに面食らったのか、お絞りで手を所在なく拭いながら耳を赤くしてぼそぼそ呟く竹田。まあ、照れてるのかもしれないけど。 「いちいちうるさいな。わたしのしたいようにしちゃいけないの。そんな文句言うんだったらもう優しいことも言わないし腕も組まない。外でキスだって絶対させてやんないから。素っ気ない方がいいんでしょ」 なんでそんな文句言うんだ。優しくされると変な顔するなんて、こいつどMか。 ちょっと切れ気味にそうまくし立てると、奴は笑って手を伸ばし、わたしの頭を撫でた。 「ごめんて。嬉しいよ、当たり前だろ。でもなんか、慣れてないからさ。優しくされて嫌なわけないじゃん」 「…ならいいけど」 口を噤む。てかそれって、わたしのせいか。可哀想な奴だ。でもここであんまり反省して急激に更に優しくしてやると、ショックで心臓止まっちゃうかもしんないからな。程々で止めておこう。 「…今まで付き合ってきた女の子たちはもっとみんな、ちゃんと優しかったの?」 気がつくと口が勝手に動いて変なことを訊いていた。奴は気にする風もなく、首を捻ってちょっと考えるように答えた。 「さぁ? どうなんだろ。あんまりそういう風に考えたことないな。…てか俺、ちゃんと付き合うのお前が初めてかも」 「は」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加