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その日、早めに職務を終わらせて、王宮から公爵邸に帰り着いたアルティナは、自室でいつも通りユーリアに迎えられた。
「お帰りなさいませ、アルティン様」
「ああ、戻ったよ、ユーリア」
「着替えたら、お食事をお持ちします」
肩から外したマントと剣を受け取ったユーリアが告げてきた内容に、アルティナは小さく首を傾げた。
「この部屋にか? 父上と母上は? まだ時間が早いから、てっきり食堂で揃って食べる羽目になるかと思っていたが」
「今夜はお二人揃って、夜会にお出かけになっておられますので」
着替えを出して台の上に出しながら、ユーリアが淡々と説明した内容に、アルティナは心底嬉しそうに応じる。
「それは助かった。あの豪奢なくせに趣味が悪くて辛気臭い食堂で、あんなウザくて口うるさい連中と向かい合わせで食べる度に、どんな美味い料理でも不味くなるし、食べた気がしなくなるからな」
「お気持ちは分かりますが、アルティン様……。もう少し言葉を選んで頂けませんか?」
「無理だな」
「……そうですね」
ユーリアも一応言ってみただけだった為、それ以上主を窘めたりはしなかった。それでアルティナは、騎士団の制服を勢い良く脱ぎ捨てながら、遠慮無く悪態を吐く。
「しかしあの連中、夜会に出るのは今週に入って二度目じゃないのか? 一昨日にも、どこぞの夜会に出たばかりだろうに……。人には面倒な事を押し付けておいて、いい気なものだ」
それを聞いたユーリアが、脱ぎ捨てられた制服を拾い上げつつ、冷静に確認を入れる。
「それではやはり、明朝すぐに、ここをお発ちになるんですね?」
「ああ。面倒な事は、早めに済ませるに限る。準備は?」
「滞りなく済ませてありますので、ご心配無く」
「ありがとう。ユーリアはやっぱり頼りになるわ」
打てば響く様に答えたユーリアに、着替えを済ませて“アルティン”から本来のアルティナに戻った彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
体型を誤魔化す為に身に着けている特注の補正具を全て外し、簡素でゆったりしたドレスを身に着け、気怠げにソファーに腰を下ろした人物は、先程までの青年姿とは打って変わって、体つきや言葉遣いが紛れもなく女性のそれであった。その豹変ぶりを誰よりも身近で見ているユーリアは(毎回思うけど、殆ど詐欺だわ)と密かに思いながら、主に対する呼称を切り替えて、気になった事を尋ねてみる。
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