第2章 不運(?)な姫君 アルティナ・グリーバス

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「アルティナ様? 今日は王宮で、何か不愉快な事でも有りましたか?」  いつもより辛辣な発言を不審に思った彼女からの問いかけに、アルティナは苦笑いで答えた。 「不愉快とかでは無いんだけど……、他の隊長達に休暇の事について突っ込まれてね。ナスリーン殿には時折“アルティナ”の話をしていたから、『久々に妹君に会えますね』という話を振られてから、色々話題が広がって冷や汗をかいたのよ。何とか誤魔化したんだけど、終いには『領地の館には花嫁候補の集団が待ち構えているんじゃないか?』と冷やかされちゃって。精神的にどっと疲れたわ」  最後はうんざりとした表情になったアルティナを見て、ユーリアはついつい笑ってしまった。 「それはお疲れ様でした。アルティナ様のお顔でしたら、“アルティン”様は毎日鏡で見ていらっしゃいますから、寂しくも何ともありませんのに」 「それに部屋に戻れば、いつだってアルティナに戻っているしね」 「騎士団の皆さんは、きっとこれを見たら仰天されますよ」  おかしそうに二人でひとしきり笑い合ってから、アルティナがソファーから立ち上がってテーブルの前の椅子に腰を下ろした。彼女が立ち上がると同時に心得たユーリアが一度部屋から出て行き、すぐにワゴンを押して戻って来る。そして主の前に食事を並べ始めたが、何を思ったか、再びアルティナが悪態を吐き出した。 「はぁ……、だけどムカつくったら……」 「アルティナ様、凄いしかめっ面ですけど、今度は何ですか?」  少し驚きながらセッティングをしていたユーリアが尋ねると、アルティナはカトラリーを取り上げながら、心底面白く無さそうに言い出した。 「だって出向かなきゃいけない理由すら知らされないまま、わざわざ長期休暇を申請して、国境付近まで出向かなきゃいけないのよ? 理由を尋ねても『向こうに着けば分かる』だけで。人を馬鹿にするのも、いい加減にしろってのよ」  文句を言いながら食べ始めたアルティナを見て、ユーリアもしみじみと感想を述べる。 「確かに……。普段から公爵様と奥様のなさる事には、理解不能な事が多々ありますね。その最たる物が、アルティナ様に双子の兄が存在する事にして、その名前で仕官させている事ですが」
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