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横に控えている彼女が、がっくりと肩を落としている事に気が付いたアルティナは、不思議そうに声をかけた。するとのろのろと顔を上げたユーリアが、主から視線を逸らしたままボソリと呟く。
「なんか……、真剣に悩むのが、もの凄く馬鹿らしく思えてきました……」
それを聞いたアルティナが、明るく笑い飛ばす。
「私の事で、そんなに悩んだりしなくても良いわよ? 別に結婚する気は無いし。外面を取り繕って窮屈な生活をする気なんか、さらさら無いもの。そもそも女性と結婚なんかできないから、両親も私の縁談はシャットアウトしてるしね。そろそろ騎士団内部で、私の男色疑惑が発生してもおかしくないわ」
その発言で、益々頭痛を覚えたユーリアが、恐る恐る問いを重ねる。
「そうすると、アルティナ様のこれからの人生設計とかは……」
「さっきもチラッと言ったけど、理想としては、白騎士隊隊長のナスリーン殿の様に、凛とした孤高の風格を保ちつつそれなりに勤め上げて、足腰が動かなくなるすっぱり引退して、ちょっとさびれた場所で農園でもできれば最高よね」
それを聞いたユーリアは深々と溜め息を吐いてから、しみじみと述べた。
「アルティナ様って……」
「うん? 何?」
「一般の貴族のご令嬢とは違う方向で、結構夢想家ですね」
「何気なく、酷い事を言われた気がするわ……」
そこで会話を切り上げて、食べる事に専念し始めた主を、ユーリアはかなり複雑な心境で見守った。
(本当に、アルティナ様の将来ってどうなるのかしら? アルティン様が実はアルティナ様だと、屋敷内でも知っている人間を最小人数にする為に、私が唯一の専属侍女になってお世話を始めて、もう六年以上……)
そこでユーリアは、小さく溜め息を吐いた。
(アルティナ様が心配でお側を離れるのを躊躇われて、何となく縁談を断っているうちに、私もそろそろ行き遅れの範疇に入りそうだわ)
それに不安を覚えたり不満があると言うわけでは無いのだが、ユーリアとしては主人程楽観的に、自分と主の将来について考える事ができなかった。
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