375人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
「あの……、私、思ったのですが……。他の方、特に教会関係者には、黙っていれば済む話なのではないですか?」
「…………」
不思議そうに問われたアルティナは、まさかグラード教の本拠地がある王都リオネルで、しかも一家揃って実直そうで、その中でも人一倍信仰心がありそうな容姿のマリエルにそんな事を言われた為、虚を衝かれて黙り込んだ。すると彼女は次にユーリア顔を向け、事も無げに尋ねる。
「だって日中、普通にアルティナ様が起きている時間帯は、アルティン様は表に出て来られないから、お亡くなりになって二ヶ月以上経過しているのに、ユーリア以外の周囲の方には全く気付かれなかったのでしょう? ねえユーリア、違うの?」
「ええ……、それは確かに、気付かれはしなかったですが……」
「だったらわざわざ、こちらから教会に申告する必要は無いでしょう?」
「え、えっと、それは……、ですね」
小首を傾げながら同意を求められたユーリアは、想定外の事態に目線で主に助けを求めた。それを受けて、アルティナが必死に頭を働かせつつ、マリエルに言い聞かせる。
「あの、マリエル嬢? アルティナは、現に私の様な悪霊付きですよ? 本来、忌避されるべき存在ですが」
「そもそもその認識が、間違っておられるのです!!」
「はい?」
途端に語気強く反論されて、アルティナは目を丸くした。
「死しても尚、妹君を想って現世に留まってしまうなんて、なんて健気で美しい魂なのでしょう! そんな魂が他人に害を為す、悪霊など呼べる筈もありませんわ。もしそれが排除すべき悪だと主張するなら、それは教会の方が間違っています。ただの欲の皮の突っ張った、皮下脂肪と小金を貯め込んだ、薄汚い小物の集団でしかありえません!」
「マリエル嬢! 教会や司教を冒涜するような台詞は、滅多に口にするものではありません! どこで誰に聞かれるか分からないのですよ?」
慌ててアルティナが窘めたが、マリエルは落ち込むどころか目を輝かせて彼女に笑顔を向けた。
「まあ、私の心配までして頂けるのですか? 感激です! この場に居るのは家族と以前からの信用が置ける使用人ばかりですので、そういう心配はご無用ですわ」
「……そうですか」
「お父様とお母様は、どう思われますか?」
最初のコメントを投稿しよう!