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そこでアルティナを放置して、マリエルが両親に意見を求めると、伯爵夫妻は一瞬顔を見合わせてから、あっさりと娘の意見に同意した。
「言われてみれば、マリエルの言う通りだな」
「伯爵!? ちょっとお待ち下さい!」
「それに変に騒ぎを起こしたりしたら、却って教会のご迷惑ですわね」
「伯爵夫人!? あの、迷惑って、それは!」
「それではアルティナ様の、今後の身の振り方についてですが」
まさか常識人に見える夫妻が、教会に対しての隠蔽に同意するとは思わなかったアルティナは、愕然となって絶句したが、次にマリエルが持ち出した話題に、ケインが食って掛かった。
「おい、ちょっと待てマリエル。身の振り方って、お前、今度は何を言い出す気だ?」
「煩いです。女の敵は黙っていて下さい」
「なっ! 女の敵って!?」
冷たい眼差し付きでそっけなくぶった切られ、ケインは内心でかなり傷付いたが、マリエルはそんな長兄の心情になど一切構う事無く、さくさくと話を進めた。
「アルティン様」
「……はい、なんでしょうか?」
今度は何を言われるのかと、思わず身構えながら応じたアルティナだったが、その緊張が伝わったのか、マリエルは穏やかに微笑みながら言葉を継いだ。
「清廉潔白で情の深いあなたが、兄の様な最低野郎に妹を渡したくないと言う気持ちは分かります。いえ、それはむしろ当然です」
「ど、どうも……」
「『最低野郎』って……、マリエル。お前、実の兄に対して酷くないか?」
容赦の無い台詞に、アルティナは思わず顔を引き攣らせ、ケインはがっくりと項垂れる。そこでマリエルは急に顔つきを改め、懇願する口調で申し出た。
「ですがこんな下衆野郎でも、お恥ずかしながら私にとっては血の繋がった兄なのです」
「はぁ……」
「マリエル。お前、『下衆野郎』なんて言葉を、一体どこで覚えた?」
「ですからここは一つ、兄に挽回する機会を与えて頂けませんか?」
「はい? 機会とは?」
ケインが本気で頭を抱え、アルティナが本気で首を捻る中、彼女はとんでもない事を言い出した。
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