第3章 不穏な気配

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「これまで連中の利益誘導の要請を、悉くはねつけて来たからな。これはいわば、自業自得と言う事か……」 「納得できません! アルティン様に非は無いのですから。恥知らずな利権漁りをしようとした、向こうが悪いに決まっています!」 「まあまあ、そう興奮しないで。ほら、着いたから喚かない」 「……分かりました」  途端に非難の声を上げたユーリアを、馬車が静かに停車した事でアルティナは注意を促しながら宥めた。そしてすぐに御者がドアを開けて恭しく到着した旨を告げてきた為、アルティナは何事も無かった顔で礼を述べる。  それから不満げなユーリアに先立って地面に降り立つと、正面にクレスタのグリーバス邸を取り仕切っているラウールが佇んでおり、アルティナは気安く声をかけた。 「やあ、ラウール。久しぶりだね。暫く世話になるよ」 「お待ちしておりました、アルティン様。まずは応接室でおくつろぎ下さい。早速で申し訳ありませんが、お話もございますので」  恭しく頭を下げた鋭い目つきの男から、アルティナは視線を外して振り返り、、背後のユーリアに声をかける。 「分かった。それではユーリア、荷物を頼む」 「はい。お部屋で整理を済ませておきます」  いつも通りの態度で頭を下げた彼女と、馬車の荷台からかさばった荷物を屋敷の使用人達が下ろすのを見てから、アルティナはラウールに付いて屋敷の中に向かって歩き出した。  暫くぶりの邸内を物珍しそうに観察しながらアルティナは進み、すぐに庭に面した応接室へと到着した。そして促されるまま重厚なソファーに座ると、ラウールが壁際に控えている侍女に目配せする。彼女が小さく頷いて傍らのワゴンを押してソファーの側までやって来てお茶を淹れ始めると、アルティナの正面に座ったラウールが、神妙な表情で口を開いた。 「アルティン様。わざわざ休暇を取ってこちらに出向いて頂いて、誠にありがとうございます」  口調だけは謙虚に聞こえるその台詞に、アルティナは笑い出しそうになりながらも何とか堪え、若干の皮肉を込めて問い返した。 「父上からの要請とあらば致し方ない。因みに父上と母上も、後からこちらにいらっしゃるのか? お二人とも色々とお忙しそうだが」 「いえ、こちらにいらっしゃるのは、アルティン様のみと伺っております」 「へぇ? そうなると父上が仰っていた『重大な用件』とやらは、ラウールが説明してくれるのかな?」
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