第3章 不穏な気配

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「はい。ご領主様の指示を受けております」 「それは良かった。待ちぼうけを食わされる心配だけは無さそうだ」  淡々とアルティナの問いに答えるラウールに、(皮肉は通じる相手に言わないと無駄だわね)と一人苦笑いしていたアルティナの前に、先程の侍女が淹れ終わったお茶を出した。それに短く礼を述べて、恐れ気も無くカップに手を伸ばしたアルティナは、一口中身を口に含んで確認しながら、密かに考えを巡らせた。 (取り敢えず、まともなお茶みたいね。さすがにいきなり毒殺するつもりでは無いみたいだわ)  家族にも内緒で、騎士団入隊後、密かに入手が可能な毒の数種については身体を慣らし、ごく少量でも判別できる様に訓練していたアルティナは、余裕でお茶を飲み始めた。するとその様子を黙って観察していたラウールが、アルティナがカップをソーサーに戻したところで、さり気なく問いかける。 「ところでアルティン様。近衛騎士団緑騎士隊隊長の証である記章と、隊長就任の際に国王陛下から下賜された短剣は、今手元にお持ちですか?」  それは充分予想できた質問だった為、アルティナは些か拍子抜けした。 (やはりそうきたわね。大体の筋書きは読めたわ。予想通りで、ある意味興醒めだけど。でも……、私の後釜になりそうな人材が、近親者に存在していたかしら?)  これからの話の流れを完全に予想しながら、アルティナは落ち着き払って答えた。 「いや? 勝手知ったる自家の領地に滞在する予定でも、行き帰りに暴漢に襲われないとも限らない。近衛騎士団を預かる司令官の一人として、その証を奪われたりしたら末代までの恥辱だ。万が一にもそんな不測の事態が起きない様に、王都の屋敷の自室の金庫に保管してきたが。それが何か?」 「いえ、それなら結構です。さすがは建国以来、最高の軍師と謳われるお方かと」 「それは偶々、複数の幸運が積み重なった結果だ。しかしラウール。無駄話はそろそろ終わりにして、いい加減に本題に入って貰いたいのだが」 「それは失礼致しました」  やんわりと促したアルティナに、ラウールは慇懃無礼と思えるほど恭しい口調と態度で応じてから、鋭い視線を向けて言い放った。 「それでは、公爵様のご意向をお伝えします。アルティン様、こちらで死んで下さい」 (これはまた、直接的だわね。こいつが私を本気で殺す気なの?)
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