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淡々と一番上の姉の嫁ぎ先と、生意気極まりない彼女の長男の名前を聞いた途端、アルティナは舌打ちするのを懸命に堪える羽目になった。それを隠す為に、皮肉気な口調で話を続ける。
「ほうぅ? それはそれは。さすがに下準備に、余念が無い事で。てっきり娘しか産まない母上に見切りを付けて、どこぞの愛人にでも息子を産ませたかと思いきや」
「そんな事はございません」
「そうだよな? 誰が見ても自分より出来が良い弟がいたのに、父上が何とか公爵位を継承できたのは、母上の実家の後押しがあったからに他ならないからな。母上を蔑ろにして、愛人なんか作れないだろう。非才と言うのは、全く難儀な事だ。いや、娘を六人も産ませたのだから、これもある意味、女好きの才能か?」
「…………」
饒舌に父親をこき下ろす彼女を見ても、ラウールは能面の様な表情で無言を貫いた。
(よりにもよって、あのガキを推してくるとはね。他の傍系の面々を、真面目に考えていたのがアホらしいわ。まだ連中の方がはるかにマシじゃないの)
そこで腹立たしい思いを面には出さず、アルティナは笑いを抑えて皮肉っぽく頷いてみせた。
「なるほど。確かタキオン公爵家からは長らく近衛騎士団入りした者はおられない筈だし、ちょっとした箔付けにはもってこいか。しかし確か彼は私の思い違いでなければ、現在十五歳だと思ったが?」
「アルティン様は十四歳で入団なさいましたが。それが何か?」
「なるほど……、これまで彼とそれほど親しく接する機会は無かったが、どうやら私以上の逸材らしい」
完全に興醒めしたアルティナは、密かに心の中で笑った。
(へえ? あのガキに、随分期待されている様で。精々騎士団で揉まれて、泣かされると良いわ)
かなり薄情な事を考えてから、彼女は事務的に話を進めた。
「そうなると、私の死亡を王宮に届けると同時に彼との養子縁組を済ませ、その後に陛下に奏上と言うわけだ。段取りが良いな」
「恐れ入ります」
「誉めてはいないがな……。皮肉はやはり、通じる相手に言わないと意味がないか。それで?」
「王都での必要な手続きが完了するまで、アルティナ様にはこちらで静かに過ごして頂きたいと思っております」
「ふぅん? まともに考えれば『私が静かに過ごして頂けない』と分かっているわけだ。それなら私が大人しく推移を見守った場合、その後は?」
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