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「それからお願いですから、私がいない間に他の侍女の方達に、我が儘を言ったり困らせないで下さいね?」
真顔で念を押してきたユーリアに、アルティナは思わず苦笑いする。
「失礼だな。誰がいつ我が儘を言った? それから、ちゃんと手土産は持ったのか? せっかく買い集めてたのに、忘れて行ったりしないように」
そんな事を言われたユーリアは、鞄の片方を軽く持ち上げながら、幾分拗ねた様に言い返した。
「当然です。ここにちゃんと入ってますから。自分なりに厳選しましたし、忘れて行きませんよ。それでは行って参ります」
「ああ。ご家族に宜しく」
最後は礼儀正しく頭を下げたユーリアに、アルティナは軽く片手を上げて笑いかけた。そして彼女を見送ってから、何気ない動作で立ち上がり、窓際へと向かう。
そして応接室の窓から庭の一隅に目を向けていると、おそらくユーリアが乗り込んだであろう馬車が、門に向かって走り出したのを認めた。
「それではアルティン様」
そのタイミングでラウールが口調だけは神妙に促してきた為、アルティナは苦笑しながら背後を振り返る。
「部屋で大人しくしていろと言うんだろう? 分かっている。ちゃんと部屋に行くが、もう少し茶を飲みたいから、そちらに運ばせて欲しいな」
「只今、準備させます。ご希望なら軽食も添えますが」
「そうだな……。ついでにお願いしようか」
そんな風に話は纏まり、アルティナは傍目にはおとなしく与えられた部屋へと向かった。しかしその姿を確認したラウールは、すぐに側に控えている男に指示を出す。
「屋敷内外の警備を怠るな。もし外に出ようとしたら、取り押えろ。手段は選ばなくて構わない。それから一応あの侍女の実家も、何か妙な動きが無いか監視しておけ」
「了解しました」
そうして甘んじて軟禁状態を受け入れたアルティナを監視する役目を負ったラウールは、暫くは緊張を強いられる事を覚悟しながら彼女が姿を消した階段の上を見上げ、人知れず小さな溜め息を吐いた。
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