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「見た目に激しく無理があるんじゃない?」
末娘のアリエラが容赦の無いコメントをしたが、レノーラは堂々と反論した。
「スカーフを被って、同じ様な服を着て行けば、一見分からないわよ。ユーリアと同じ黒髪なのは、私だけだし」
それを聞いたユーリアは、思わず唸るように感想を述べた。
「確かに、わざわざ近寄って見に来る事は無いとは思うけど……。母さんも大胆ね」
「それ以前に、母さんが姉さんの振りをするって……、色々無理があると思うんだけど……。普通だったら私が髪を染めるとか」
「そうしたら、アリエラが居なくなっちゃうでしょう? さあ、暫く一人二役をする事になるんだから、あなた達もしっかり協力してよ?」
「はい」
「分かってるけど……」
そしてレノーラ主導で方針が固まり、彼女の夫と息子が連絡用の鳥を飼育している仕事場まで、ミラとユーリアが飼料を運び、その飼育場で見事に母と娘は入れ替わった。
それから数刻後。辺りがすっかり暗くなってから、一軒の食堂で酒を飲みつつ食事をしていたデニスは、いきなり背後から肩を叩かれて、一瞬全身に緊張を走らせた。
「デニス兄さん、発見!」
危うくナイフを放り出し、腰に装着している短剣に手を伸ばしかけた彼だったが、聞き覚えの有りすぎる声に、一気に脱力する。
「ユーリア? お前、どこから湧いて出た? それにどうしてここに?」
「アルティナ様から、兄さんに“手土産”を持って行く様に頼まれたのよ」
「……それか?」
「ええ」
戸惑ったのも一瞬で、アルティナがアルティンとして近衛騎士団に入隊するのと同時に、グリーバス公爵家の私兵の中から選抜され、抱き合わせの形で緑騎士隊に入隊して以来、“アルティン”の腹心を務めてきた彼は、今ここに妹がいるという異常事態で、すぐに粗方の事情を察し、盛大に舌打ちした。
「あの馬鹿公爵、とうとうアルティナ様を切り捨てやがったか」
「最初から、繋ぎのつもりだったのかしらね。アルティナ様を馬鹿にするにも程があるわよ」
そしてユーリアが、斜め掛けにしている皮のバッグを確認してから自分の向かい側に座ると、料理を注文した彼女に向かって、デニスが不思議そうに尋ねた。
「それはともかく……、良く俺がここに居ると分かったな? アルティナ様が屋敷に入ったのを確認してから、こっそり連絡を取るつもりだったんだが」
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