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端的に報告した内容に、たちまち室内に怒声が沸き起こる。それを宥める様に、バイゼルが口を挟んできた。
「それでどうしてデニスが、グリーバス家に知られない様にこちらに駆け戻って来たかと言うと、緑騎士隊隊長の証である記章と短剣の返却、及び速やかなる後任任命の為だ」
「グリーバス家が、預かり知らぬ事なのですか?」
「それはまた、どういう事です?」
取り敢えず怒りを抑えて、問いかける視線を騎士団長と自分に向けてきた面々に向かって、デニスは落ち着き払って説明を続けた。
「グリーバス公爵家は、初代当主の建国時の多大な功績により、その家の男子は無条件に近衛軍入隊を許される上、司令官職に空きがある場合には、そこへの即時就任が許可されています。その為、歴代の当主やその身内の男性が、近衛軍の要職に就いてきたのは、皆様の方がご存知かと」
そうデニスが指摘した途端、出席者が一様に苦々しい顔付きになった。
「そうだな。俺達は、嫌と言うほど知っているな」
「グリーバス家はこれまで優秀な軍人を、アルティンを含めて何人か輩出しているが、記録ではその倍以上、ろくでもない奴が送り込まれて来ていますね」
「それに知り合いの貴族の子弟を、箔を付けさせるために入隊させて謝礼を取ったり、繋がりを作るのは可愛い方ですし」
「挙げ句の果て、騎士団に備品を納品している業者を強引にコロコロ変えて、口を利いた商人から賄賂を取ったりもしてたよな。本当にろくでもないぞ、あの親父。あんなのの息子で、良くアルティンがあんなに清廉潔白に育ったもんだ」
「皆様……。本当の事とは言え、身も蓋も無さ過ぎです」
ナスリーンが遠慮の無さ過ぎる同僚達をやんわりと窘めてから、デニスに視線を向けて確認を入れてきた。
「すると、デニス殿が内密に至急の使者に立ったのは、自分の後任にグリーバス家が縁のある人物をねじ込もうとしているのを、生前アルティン殿が察知していた為ですか?」
「はい、具体的な名前までは分かりませんが。アルティン様は緑騎士隊隊長就任以来、お父上やご親族からの要請を、悉くはねつけておいででしたので。常々『私は周りから、相当恨まれている様だね。さっさと首をすげ替えられるかもしれないな』などと、時折笑っておられました」
真顔でデニスが頷き、告げてきた内容を聞いて、周りの者達が揃って顔色を変える。
「……ちょっと待て、デニス」
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