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「まさかアルティンの急死は、グリーバス家の仕業ではあるまいな?」
「まさかそんな……。公爵様を初めとして、ご親族の方々に目の敵にされたと言っても、さすがにそこまでは……」
一応否定の言葉を口にしながらも、明確に否定しきれない表情を見せたデニスに、室内の空気が一層険悪な物になる。半分以上わざと疑う様な口調と態度を取ったデニスは、その反応に密かにほくそ笑んだ。
(順調順調。これでグリーバス家の近衛騎士団内での悪評が、これまで以上に高まるってものだな。後は勝手に憶測で尾びれが付いて、市中に広がるだろう)
そんな剣呑な空気の中、バイゼルが重々しく言い出す。
「しかしそういう環境だったからこそ、アルティンはこの上申書を残したのだからな。用件の所だけ読み上げるぞ」
そして手にしていた封書の中身を取り出し、広げて視線を落としながら読み上げる。
「『私、近衛軍緑騎士隊隊長アルティン・グリーバスの後任として、現副隊長のカーネル・ランスを推薦し、可及的速やかに任命する事を要請致します。更に空席となる同副隊長には、同様にロイ・マグナバル分隊長の任命を願います。近衛軍として陛下直属の軍司令官の席を僅かなりとも空席にし、危急の事態に対応し損ねる事など有ってはならないと愚考いたします』とある。それでお前達の意見を聞きたい」
文書から視線を上げ、バイゼルが部下達に意見を求めると、即座に肯定の返事が返ってきた。
「異存ありません」
「アルティンの遺志に同意します」
「最適の人事かと存じます」
「寧ろ、それ以上の適材適所はありません。カーネル殿はアルティン殿より長く緑騎士隊に属し、アルティン殿がグリーバス家出身故に自身を飛び越えて隊長に就任した後も、真摯に彼に仕えて補佐して来ました。アルティン殿もそれを分かっておられての、この人事でしょう」
アルティンの意図を正解に読み取ったナスリーンが、真摯に同意する旨を告げてきた為、バイゼルはそれに頷いてみせてから、この間黙って話を聞いていたカーネルに声をかけた。
「どうだ? カーネル」
静かに問われた彼は、俯いていた顔をゆっくりと上げ、決意溢れる表情でバイゼルを見やる。
「慎んで拝命致します。若くしてお亡くなりになった隊長の分まで、精一杯務めさせて頂きます」
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