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「デニス殿、御苦労でした。しかし内密に記章と短剣を預かるとは……。急に屋敷に出向いたりして、グリーバス家の者達に不審がられはしなかったのですか?」
「実は、私はアルティン様がお亡くなりになった時、傍に控えていた訳では無いのです。隊長に『内密に領内の調査をして貰う必要があるかもしれないから』と言われて、領内の端で待機していた私の元に、アルティン様の専属侍女をしている妹が、届けに来たものですから。アルティン様の最期の様子も、妹から聞いたものです」
「それで王都まで、急いで駆けて来てくださったわけですね」
ふと疑問を感じたらしいナスリーンが尋ねてきた為、デニスは予め用意しておいた内容を口にした。するとここで彼女が、想定外の質問を繰り出してくる。
「そう言えば、アルティン殿の妹君はどうされているか分かりますか? ご自分が暮らしている館で兄が急死したのですから、相当ショックを受けられたかと思いますが」
心の底から案じている様に尋ねられ、周りの者もアルティナが休暇に入る直前の話を思い出し、揃ってデニスに視線を向けると、彼は内心で激しく動揺した。
(げ……。ちょっと待て! アルティナ様は自分の事を、どんな風にナスリーン隊長に喋っていたんだ? 取り敢えず病弱な双子の妹がいると話に出した事があるとか、チラッと聞いた事はあったが、下手な事は言えないだろうが!)
迂闊に喋って、アルティナの言っていた内容と齟齬が出ると拙いと、彼が密かに焦っていると、黙り込んだデニスを見たナスリーンが、顔を強張らせながら言い出した。
「デニス殿、どうかしましたか? まさか妹君まで伏せっておいでとか? 何か悪い病でもグリーバス領内で流行っているなら、即刻陛下に申し上げて、医師団の派遣を検討して頂かないと」
「いえ、確かにアルティン様がお亡くなりになったショックでお倒れになられましたが、ご病気ではありませんので」
「そうですか? でもグリーバス家の方々から、双子の忌み子と言われて冷遇されて、最近ではアルティン殿が後見をしておられたとか。周りの方々から心無い事を言われたりして、胸を痛めておられないかと心配です」
今にも腰を上げて医師団の派遣を要請しかねない彼女を見て、デニスは慌てて弁解した。それでひとまずは安心した様に見えたナスリーンを見た彼は、彼女の懸念に乗る事にする。
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