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そう力強く宣言した彼を見て、周囲の者は最初呆気に取られ、次に揃ってアルティナに生温かい視線を向けた。
「妹さんが結婚できないのって……」
「半分はお前のせいなんじゃないか?」
「シスコン臭がプンプンするな~」
「皆さん、何気に失礼ですね!?」
アルティナがわざと腹を立てて言い返すと、笑いを堪える様な口調で、バイゼルが言い聞かせてくる。
「アルティン。妹の将来を心配をする前に、自分の結婚の心配をした方が良いな。あちこちから縁談が持ち込まれているんだろう? これまで悉く断っている様だが」
「案外、領地の館に、花嫁候補のお嬢さん達が何十人と集められていて、あなたの到着を今か今かと待ち構えているかもしれませんよ? 心して帰郷された方が宜しいかと」
「ナスリーン殿まで……、本当に勘弁して下さい」
軽く脅されてしまったアルティナは、心底情けない様子で呻いた。その姿に稀代の天才軍師の面影は欠片もなく、常には見られないその光景に、周りの者達は揃って楽しげな笑い声を上げた。
(ふぅ……、なんとか誤魔化すのには成功したし、ああ言っておけば親切心からアルティナへの縁談を取り持とうとか、余計な事を考えたりしないわよね。シスコン疑惑位、なんでもないし。……だけどあの親父、まさか本当に領地にアルティンの花嫁候補とか揃えていないわよね? 女同士で、どうやって結婚しろって言うのよ?)
冷やかされながら会議室を出て、与えられている隊長室に向かって歩き出したアルティナは、取り留めの無い内容を考えながら歩いていた為、傍目には百面相をしている様にしか見えなかった。
それが緑騎士隊隊長“アルティン・グリーバス”の姿を最後に目にする機会になるなどとは、近衛騎士団の誰もが夢にも思っていなかった。
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