暫く、赤石稔です。

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それから2ヶ月間。 結構な頻度で楓と呑みに行った。 他愛ない話をして楓からの信頼を得る。 最近では、楓も敬語を使わなくなりフレンドリーな雰囲気になってきた。 たまに彼、つまり依頼主の話をするのだが。 聞いてて思うのは、薄々気付いてるんじゃないかって事。 勿論、俺の事じゃなくて他の相手の存在に。 『彼のね。家には行った事無いんだよね。何処に住んでるのかとか聞いたことない。』 「えっ?そうなの?お互いの家を行き来してるのかと思ってた。楓から聞いたことないの?」 『ん。無い。』 「何で?」 『何となく。僕の家かホテルってのが当たり前みたいになってるから。でも、やっぱり不安になってね。僕達って付き合ってるんだよね?って聞いたことはあるよ。』 「で?彼は何て?」 『当たり前だろ。って。』 「それだけ?」 『ん。それだけ。そこから流れでエッチしちゃうみたいな?』 はにかむ楓。 辛いんだろうけど笑ってる。 淡々と笑顔を浮かべて話をする楓。 私情を挟んだらいけないが、何ていうのか。 健気っていうのか、単純っていうのか。 見ているこっちが切なくなってくる。 まぁ。初めて付き合って初めて身体を捧げた相手な訳だし。 分からなくもないけど。 俺も実際のところ、男同士の初めてが清一さんだったからか、今だに心に残ってる。 こんな仕事して、色んな男を相手にしたけど。 やっぱり清一さんとのセックスは全然違う。 それは今でも同じで。 朝起きて清一さんの姿がいつも無いのは凄い虚無感に襲われる。 それだけの関係だと分かっていても。 だからといって、清一さんと恋人同士にっていうのは恐れ多くて考えもしない。 初めてってのは結構、人生の中で大きいよな。
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