暫く、赤石稔です。

17/42
前へ
/166ページ
次へ
「それでも好きなんだろ?彼の事。」 彼との話がでて最後にいつも俺が言うセリフ。 『ん。好きかな。』 そう言って楓はニッコリ笑うんだ。 この仕事を始めて、色んな恋人達の終わりを見てきたけど。 何か、今回のパターンはちょっと初めてかもしれない。 ここまで恋人を一途に想ってるのは楓だけだ。 今までは、何だかんだで良い感じになってくると女はすり寄ってくる。 タチの男は口説いてくる。 ネコの男は心移りしてくる。 最初は警戒しても、俺が相手の好みに合わせる事もあって最終的には相手からアプローチしてくるんだ。 でも、楓は違う。 まず、俺を警戒しなかった。 客商売だからと言われれば当たり前なのかもしれないけど。 何だろう。 壁を感じなかったって言えばいいのか。 依頼主からの情報では、性格はおっとり系だと書いてあったが違う。 楓を知れば知るほど、しっかりしているんだと感じる。 依頼主は、1年半も楓の何を見てきたんだろうか。 依頼主がどんな奴なのかは俺は知らない。 だけど、こんな楓と別れたいなんてバカな奴だとそれだけは心底思う。 「楓。辛い時は泣きなよ?そんなに無理して笑わなくてもいいんだよ?」 辛そうに笑う楓。 きっと本人も分かっていないのかもしれない。 辛いんだって事を。 好きだって気持ちだけで辛い想いを閉じ込めているんじゃないかな。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

138人が本棚に入れています
本棚に追加