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水曜日。
『稔さん!』
待ち合わせの店の前。
満面の笑みで俺に手を振る楓に胸が痛む。
でも、そんな顔は出来ない。
仕事だ、仕事。
しっかりしろ。俺。
「楓。お待たせ。ごめんね。待った?」
笑顔を張り付ける。
『僕も今来たところだから。気にしないで。入ろうか。』
「…ん。そうだね。」
『どうかした?』
「えっ?どうも、しないよ?」
『何か今日の稔さん、変。疲れてる?』
「大丈夫だって。ほらっ。早く入ろう。」
楓の背中を押して店内へと入った。
…ダメだ。
本当、しっかりしないと。
気を引き絞め、赤石稔を演じる。
二人でカウンター席に座り、それぞれ料理とお酒を注文した。
「じゃあ、乾杯。仕事、お疲れ様。楓。」
『乾杯。稔さんもお疲れ様。』
グラスを合わせてお互いニッコリ笑い合う。
いつもの様に他愛ない話で盛り上がり、お酒もすすんできた。
『僕ね。今、稔さんが呑み友達だから言えるんだけどね。』
そう言って、ウフフッと微笑む楓。
「何?何か怪しい。」
目を細めて楓を見る。
『あのね。退かないでよ?』
「えっ?退くような事?」
『それは、稔さん次第かな。でも、本当。呑み友達になれたから言えるんだからね。そこ重要~。』
人差し指をピンッと立て顔の横にやる楓。
…結構、酔ってるな。
「で?何?気になる。」
ピンッと立てた指を掴んで、楓の頬にプニッっと突き刺した。
『…痛い…。』
笑って手を離した。
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