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『何だか今日は気分がいいから、とことん呑みたい気分。稔さんも付き合ってよ。』
自分のグラスを俺のグラスに軽くあて、ニッコリ笑う楓に微笑んで頷いた。
楓は楽しそうに仕事の話や彼の話をしていた。
俺はそれに笑いながら相槌を打つだけで。
楓が笑う度にグサグサと俺の心に罪悪感と言う名の矢が刺さっていく。
痛くて苦しくて。
でも、その矢を抜くことなんて許されなくて。
そんな事をすれば、社長を会社を裏切る事になる。
それだけは絶対に出来ない。
社長と言うより、清一さんをと言った方が正しいだろう。
今の俺があるのは清一さんのおかげだから。
清一さんの顔がふと頭に浮かんだ。
この仕事が終れば、また誘ってくれるだろうか。
無性に清一さんに会いたくなった。
会いたくなったなんて綺麗事じゃないな。
抱きたい。
『ちょっと!稔さん!僕の話、聞いてる?』
少し考え込んでしまった俺の腕を掴み頬を膨らませている楓。
「聞いてるよ~。最近、彼がキスしてくれないって話でしょ?」
楓に視線をやれば、そうだと言わんばかりに何度も頷いている。
『…何でかなぁ。』
不安そうな瞳が揺らいでいる。
「倦怠期…とか。」
『…倦怠期?』
「ん。ほらっ。長く付き合ってたらさ。日常の一部になってきちゃって。新鮮味が無くなるって言うの?」
『…新鮮味かぁ。ん~。そう言われればそうかもしれないなぁ~。それって、どうしたらいい?』
困った様に俺に問う楓。
「それは、楓が考えなきゃダメじゃない?俺は彼の事知らないし。どんな人なのかどんな感じなのか。一番知ってるのは楓でしょ?」
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