暫く、赤石稔です。

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「…だからぁ。それは、楓が考えな。とりあえず、ほらっ。ちゃんと立って。」 楓の背中をポンポン軽く叩いて宥める様に言った。 『…教えてよ。…どんなキスしたらいいのか…』 俺にしがみつき呟く楓。 思い詰めたのか。 真面目な楓がそう言う事自体、焦っているんだと気付いた。 「…分かった。一回だけね。目閉じて。」 言えば、少しだけ身体を離した楓はおれをじっと見つめてから目を閉じた。 楓の両肩に手をやり身体を屈ませ顔を寄せた。 顔を少し横に倒し楓の唇へと俺の唇を…。 「…ったく。無理しちゃって。」 あと少しで唇が触れる瞬間に止まって呟いた。 写真はこれで充分だろう。 明奈さんが撮ってるのはきっとあの車からだ。 あそこからなら、キスしてる様に撮れるはず。 楓の唇をブニッって摘まんだ。 バッっと目を開ける楓にニッコリ笑った。 『…ん?』 首を傾げる楓。 「楓さ。自分の性格分かってる?こんな事したら後から後悔するでしょ?」 言って楓の唇から手を離した。 『…稔さん。…ん。ごめん。』 俯いた楓の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。 「そんなに思い詰めないで。楓は笑顔が一番だって言っただろ?」 笑って言った。 楓は笑顔で少しだけ瞳を濡らして頷いた。 これでいい。 仕事とはいえ、楓をこれ以上傷付けたく無い。 ここでキスをしてしまえば、絶対に楓は自分を責める。 別れを告げられても自分だけが悪いんだと思ってしまう。 せめて何も無かったのに信じてもらえなかったんだと思ってくれた方がいいから。
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