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荷物も纏め終わり、不動産屋が来たのは昼前。
解約手続きをして不動産屋は帰った。
昼飯でも買いに行こうとコンビニへ向かう。
適当に買ってマンションに帰れば、玄関前に誰か居る。
その姿に思わず立ち止まってしまった。
「…楓?」
俺に気付いた楓ははにかんだ様に笑って。
『…来ちゃった。』
ポツリと呟いて俯いた。
まさか、もう?
でも、どうやらそのまさかだった様だ。
楓の近くに行くにつれハッキリ分かる楓の顔。
目が腫れて充血している。
泣いたんだろうと安易に予想がついた。
「…楓。どうしたの?」
無視出来る訳もなく。
『…稔さん…僕…僕ね…』
それまでが限界だったのだろう。
楓の目からポタポタと大きな雫が落ちる。
「…とりあえず、中に入ろうか。」
楓の横を通りすぎ家の鍵を開けて中に入る様に促した。
『…ごめん。』
俯いたまま呟いた楓が中に入ったのを確認して扉を閉めた。
「ソファーにでも座って。」
楓に声をかけキッチンに向かう。
冷蔵庫にさっき買ったお弁当を入れ、代わりに水と缶コーヒーを手に取った。
「はい。ブラックだけど飲める?」
楓に缶コーヒーを手渡し、俺は床に座った。
『…ん。ありがとう。』
缶コーヒーを握り締め、また俯く楓。
「楓。どうしたの?何かあった?」
白々しい。
何があったのか知っているのに。
それでも、楓にとって俺は赤石稔で。
だから、演じる。
『…今朝ね。彼からメールきて…』
ポツリポツリと話し出す楓。
『…ウチに来るって言うから…楽しみに待ってて…』
泣くのを堪えているのか、言葉に詰まりながら話す。
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