暫く、赤石稔です。

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俺は黙って楓の話を聞いた。 『…彼、来た途端に…怒りだして…これ…投げつけられた…』 楓はバックから封筒を取り出し俺に差し出した。 …やっぱり。 仕事、早すぎでしょ。明奈さん。 「…何?これ。」 聞いても黙っている楓から封筒を受け取る。 「中?見てもいいの?」 言えば頷く楓に封筒の中を見て、書類と写真を取り出した。 「…これって…夕べの?」 まぁ。何て言うのか。 完璧過ぎる明奈さんの腕前。 楓が待ち合わせ場所で俺に笑顔で手を振る瞬間や俺が楓の背中に手をあて店に入る瞬間。 そして、俺が楓の肩を抱いて店から出てくる瞬間に路地裏での抱きしめる瞬間、キスをしている瞬間。 どこをどう見ても二人とも笑顔で、顔がハッキリ写っている。 キスの写真はしてないが、撮る角度でやはりしている様に見える。 書類に目をやると結果報告書と記載されていて、内容は楓の浮気が決定的だというものだった。 『…探偵事務所に…依頼してたって…』 「…何で?」 『…僕が…最近…彼と会ってても…様子が違うって…楽しそうだったからって…』 「彼と会ってれば楽しいよね?普通。」 『…寂しかった…彼と会えても…僕、寂しかったんだ…だんだん、僕を見てくれてないのが分かって…』 初めて楓の本音に触れた。 どんなに呑んで話をしていても、楓は彼の事を悪く言う事はなかった。 不安だとかどうしてだろうとか、そういう言い方しかしなかったのに。 笑って好きだと言っていた。 幸せなんだと言っていたのに。 やっぱり気付いていたんだ。 「どうして、彼に聞かなかったの?楓を見てないって事は他に居るかもしれないって事でしょ?」 『…怖かった。…彼に見放されるのが怖かったから…ずっと我慢してたのに…』 また、楓からは涙が溢れ出した。 「…それで?もしかして、これを渡されて楓が浮気してるから別れるって?」 楓の涙が俺にはキツすぎて。 『…ん。こんなに笑顔の僕を彼は知らないって…こいつがそんなに好きなら…別れてやるって…』 しゃくりあげながら話をする楓。
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