暫く、赤石稔です。

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朝になり楓を起こす。 「楓。朝だよ。」 勿論、俺はソファーに寝た。 『…っん?稔さん?』 まだ寝ぼけている様だ。 「おはよう。楓。身体、大丈夫?」 寝ている楓の髪を撫でた。 『…あっ…ごめん。僕…』 何も着ていないのを確認して夕べの事を思い出したらしく、俯いた楓。 「何で謝るの?夕べは何もなかった。だろ?」 微笑んで言うと楓は俺を見て、はにかんだ。 『稔さん、ありがと。』 「ほらっ。早く着替えて。仕事だろ?」 立ち上がると楓が頷いた。 「洋服、そこにあるから。着替えたらコーヒー飲もう。」 言って寝室を出た。 コーヒーを入れてカップに注ぐ。 暫くしたら楓がリビングに来た。 「コーヒー持ってくからそこに座ってて。」 カップを持って楓に手渡しソファーに座る様に促した。 『ありがとう。いただきます。』 コーヒーを飲む楓を見ながら床に座る。 「楓さ。前に進みなよ。立ち止まってたら勿体ないし。楓なら素敵な人必ず見つかるから。」 微笑んで楓に言いコーヒーを一口飲む。 『ん。頑張る。僕、稔さんに出逢えて本当に良かった。ちゃんと前に進むから。だから、心配しないで。』 楓も微笑んだ。 少し安心した。 楓の笑顔が見れたから。 あの辛そうな悲しそうな笑顔じゃないから。 楓は幸せになれると思う。 大丈夫。俺が居なくても。大丈夫だ。 コーヒーを飲み終わって、楓は仕事だからと帰って行った。 いつもの満面の笑みで大きく手を振り、またね。って言いながら。 「…またね…っか。」 あったらよかったのにな。 次があったらよかったのに。 もう、最後だ。 本当に最後。 楓の後ろ姿が見えなくなるまで立ち尽くした。 そして、俺は引っ越しを済ませた。 本来の場所へ。 [赤石稔]から[神谷武]へ。
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