神谷君、辞めていただきます。

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『…おい。神谷。どうした。』 『…神谷?何があったの?』 社長室の扉の前で俯いて立ち止まった俺に、サワさんと明奈さんが心配そうに視線を向けていた。 「…いえ。何も。」 言って自分のデスクに向かった。 『…大丈夫か?顔色悪いぞ。』 サワさんが俺の横に来て肩に手をやった。 「…サワさん。俺の机の物。全部、処分して下さい。」 『…ちょっと。どういう事?』 明奈さんも隣に来た。 「…サワさん。明奈さん。お世話になりました。色々とご指導本当にありがとうございました。お二人と仕事出来て、楽しかったです。」 二人に向き直り、深々と頭を下げた。 いつも俺をからかって遊んでた二人だけど、仕事に関しては厳しくて色んな事を教えてくれた。 励ましてもらったり、渇を入れられたり。 色んな事があったけど、この二人と過ごせた時間は本当に楽しかった。 けど、もう一緒に仕事も出来ない。 まして、ここをクビになった今。 もう、二度とこの人達と連絡を取ってはいけない。 それも【別れさせ屋】の条件のひとつだ。 情報漏洩、ヘッドハンティング等の色んな問題があるからだ。 俺はいっぺんに色んな物を失った。 サワさんも明奈さんも勘がいいから、俺の状況を察したのだろう。 それ以上、何も言わなかった。 だけど、俺がオフィスを出ていくのを最後まで見送ってくれたんだ。
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