神谷君、辞めていただきます。

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重い足取りで家に帰り、握り締めていた封筒をソファーに放り投げた。 着ていた背広も脱ぎ捨て、キッチンへ向かう。 絞めていたネクタイを乱暴に緩めながら戸棚にあるウイスキーのボトルとグラスを取り出した。 ボトルとグラスを手にソファーへと座り、テーブルに置いたグラスに琥珀色の液体をなみなみと注いだ。 それを一気に飲み干せば、喉が焼ける様にカッっと熱くなる。 緩めたネクタイを抜き取りシャツのボタンを外す。 グラスにまたウイスキーを注ぎ、ソファーに深く凭れかかった。 「…クソッ!何なんだよっ!」 俺が悪い。 分かってる。 分かってるけど、あの社長の冷酷過ぎる切り捨て方に不満とは違う憤りを感じた。 自惚れていたのかもしれない。 身体の関係だけだとしても、自分は社長の…いや、清一さんの特別なんだと思っていたのかもしれない。 もしかしたら、明奈さんは無いにしろサワさんとも身体の関係があったかもしれないのに。 そんな事は考えもしなかった。 身体を重ねる時、清一さんが[神谷君]じゃなく[武]と呼ぶあの声に、どこかしら自分だけ特別なんだと思い込んでいた。 だから尚更。 社長として間違ってはいないのかもしれないが、清一さんとしても俺を切り捨てたと言うことになる。 考えれば考える程、胸が苦しくて。 会社をクビになった事よりも清一さんに切り捨てられたんだと思うと、何とも言えない感情が渦巻いた。 もう、お前なんか必要ない。 そう言われた様な気がした。
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