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確か前回は同じような質問をされ、「絵画などいかがでしょう」と片付けの手間の少ないものを答えてしまったのが悪かったのか、あの後あんな事態を起こされるとは完全に予想外もいい所だった。
(まさか描く方ではなく、描かれる方を望まれるとは想定していなかった。あの方にも迷惑かけてしまったし……)
今度はこの方1人で、しかも余所に迷惑がかからない遊びがないものかと思案していると、入り口から硬質な足音が近づいてくる。
「お前!大人しく暇つぶしが出来ないのか!」
「おー!お久―!」
「おひさー……じゃない!」
噂をすればという言葉は正しいものなのか、思い出の中の被害者が目の前に現れる。一体いつぶりだろうか、年月の概念がないこの場においては、どの位前かを思い出すよりも、被害にあった回数を数える方が的確かもしれない。
「いらっしゃいませ。何かお出ししましょうか」
「結構だ。生憎忙しい」
「えー、マジでー?」
ぴしゃりと簡潔な返答が返されると、横で聞いていた主が不満そうに語尾を伸ばす。
ぴっちりと黒のスーツというもので全身を固めた、鴉のような漆黒の癖のない髪がゆらりと揺れると、金髪で癖っ毛の水晶のような瞳を丸くして見せた相手を一睨みし、髪の毛も瞳も対照的な真っ赤な瞳の色が、頬に移ったかのように顔を紅潮させながら書類を床に叩きつける。
「お前の仕業だろうが!」
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