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こういう誘導の仕方を習った。あるいは、教えられた型を間違って覚えてしまった。
どちらの可能性もあるし、そもそも、だから何だという程度のことだ。でも俺はどうにもその棒の動きが気になった。いや、気になるどころか悪寒を覚えたのだ。
遠回りになることを承知で、俺は渋滞の列から外れ、脇道へと進路を変更した。
…その判断が正しかったことを、俺は後日のテレビニュースで知ることになった。
市内で相次いだ失踪事件。車で出かけた人間が何人もいなくなり、家族などが一気に警察に連絡を入れたことで、謎の大量失踪は事件として扱われることになったのだ。
ニュースで語られた内容では、失踪した人達に関連はまるでなかったが、唯一共通していたのは、どうやらその全員が、あの、工事が行われていた道路を通っているらしいということだった。
俺以外にも渋滞を嫌って道を変えた人間がいたらしく、その人達が浮けたインタビューで、あの夜の工事は、本来行われてはいないものだということも知った。
ニュースでは、目的は不明だが、大掛かりな組織的犯行の拉致事件としてこの件は報じられているが、あの夜現場にいた俺は、この件はそんなものじゃないと確信している。
あの時、誘導棒の赤いランプの中に、少しだけ窺えた道路整備員の顔。
見間違い、あるいは疲れ過ぎての気のせいと思っていたが、どうやら俺の目は正しかったようだ。
生気云々以前に、骸骨のお面でもかぶっているのかと思わされる、そんな顔だった。そいつが誘導棒を、奥ではなく『下』へと振っていた。
誘導されてあの道を通った人達は、いったいどこへ行ってしまったのか。
赤いランプの向うの闇はどこへ続いていたのか。
迂回し、何を免れた俺には、その答えは判らない。
道路工事…完
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