誰かのために

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誰かのために

 兜礼二は昔、人を殺したとは思えないくらいおっとりしていた。  近藤真彦の《愚か者》が脳裏で流れる。  和泉の死は哀しかった。蒲生剛三や海津、鷲尾のせいで、ボロボロになり殺人を犯して自ら命を絶った。真壁は徳永ミツヱってお婆さんを介護することになった。  車椅子を押して山頂に向かった。給料が手に入る上、生活費がかからない。賄いや風呂までつく、贅沢は言えない。この歳になったら経験者が優遇され、なかなか職にありつけない。  兜様様だ。  山頂からは十字がキレイに見えた。  かつて凄惨な事件があったとは思えない。 「お兄ちゃん、大変だったでしょ?少し休みなさい」ミツヱさんが優しく微笑んだ。  
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