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闇カジノからの脱出
「はぁ……」
静岡市の駅からほど近い街中。
雑居ビルの2階に、ひっそりとその事務所は存在していた。
広さにしておよそ6畳ほどの手狭な物件。
部屋の真ん中では、ボロボロのワーキングチェアに腰かけたたぬきが、偉そうにふんぞり返っている。
リサイクルショップで値切りに値切ったデスクの上では、山積みになった紙類が今にもなだれを起こしそうだ。
とはいっても、決して仕事が立て込んでいるわけではない。
広がっているのは大体が読み飽きたスポーツ新聞やポストに投げ込まれていたチラシで、要するにこのたぬきは、片付けはおろか全ての事がらに対するやる気を失っているのである。
「で? いつになったら私は人間に戻れるわけっ?!」
こうして事務所を構えてから一ヶ月が経過したが、舞い込む依頼は「逃げた飼い猫を探して欲しい」だの「失くし物を探して欲しい」だの、いかにも平和ボケしたものばかりだ。
そのことが彼は不満だった。
――ジェリーがこうして探偵事務所を構えているのには、わけがある。
そしてかつては人間であった彼がこうしてたぬきの姿に甘んじているのにも、のっぴきならない事情があるのだ。
「まぁ、そう焦るな」
渋めのダンディボイスがそう言ってジェリーをなだめる。
声の主はカメレオンのメロン。
ビシッとタキシードを着こなした彼こそが、ジェリーに探偵事務所の設立を促した張本人だった。
「こうして待ち構えていたって、すぐに尻尾を出してくれるほど連中は甘くない。『青の組織』は用心深いからな」
パイプの煙を吐き出しながら、メロンは低く抑えた声で呟いた。
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