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そして明くる日の夕刻。
ジェリーとメロンは、珍しく二人揃って事務所を飛び出し、両替町を闊歩していた。
「……で? 何をしようってんだ?」
「え~~……何ってほら、ぱぱぱ、パトロールってやつぅ? いつどこに依頼がころがってるかわからないからさぁ~」
言い訳がましい言葉を並べるジェリーが一心不乱に見つめているのは、美しい女性の写真が使われた、少しばかりいかがわしい店の看板だ。
「ったく、鼻の下が伸びちまってるぜ。だらしない……」
「ははは、鼻の下なんて伸びてないったら!」
うろたえた様子で慌てて看板から視線をそらしたジェリーは、わざとらしく真剣な顔を作り、街の中のあらゆる場所を注意深く観察する。
「あ、あそこの居酒屋が怪しいゾ……ッ!」
「ああ、生ビールが一杯190円なんて怪しすぎるな」
「でしょ?! では早速調査に……!」
「それが出費以外の何になるっていうんだ」
やんややんやと騒ぎながら歩きまわるジェリー達には見向きもせず、今日も元気に髪をおったてた客引きの男達が、かたっぱしからサラリーマンに声をかけている。
お安くとしときますよ。
かわいい娘いますよ。
「くそぅ、私だって、かかか、可愛い女の子には興味津々だぞ……ッ!」
ぼそっと呟いたジェリーの胸中を知ってか知らずか、静かに歩み寄ってくる一人の女性。
白いシャツに黒いベストを羽織った彼女は、ジェリーに向かっておもむろにこう言い放つ。
「カジノ、いかがっすかー」
それはまるで、道端の果物屋が「バナナいかがっすかー」と声をかける時のような気軽さだった。
しかしながら、現在の日本でカジノの営業は認められていない……はずである。
「……」
ジェリーとメロンは、目くばせをしてお互いの意思を確認する。
「闇カジノ、いかがっすかー」
言った! しかもかなりはっきり言った!
ジェリーはメロンと再び視線を交わして頷きあうと、すかさずその客引き(?)に話しかける。
「ちょちょちょ、や、闇カジノって……ダメなやつだよね? 『闇』だもんね?!」
早口でまくしたてるジェリーに、彼女はこともなげに答えた。
「はぁ。まぁ、表向きは」
「法律には表向きも裏向きも存在しないよォ!!」
ジェリーがツッコミにまわらなければならない日が来るとは、世も末である。
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