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「お客さぁーん……」
客引きが招き猫のようにちょいと動かした手が宙をかく。
二人の押し問答は徐々にヒートアップしていき、ついには彼らの熱気におされた周囲の野次馬たちが騒ぎ始めた。
「おい! 誰か警察呼べよ!」
どこからかそんな囁き声まで聞こえてくる。
「くっ……! ここは一時撤退っ……!」
客引きの女は短くそう言い残すと、足早にその場を後にした。
やんややんやと言い争う二人の元に、警察が到着するのも時間の問題だ。
――事件を解決して報酬を得るどころか、事件を起こして警察の厄介になってしまう探偵など見たことが無い。
しかし、そう言って二人をさとしてやれる人間など、きらめくネオンがまばゆいこの街にいるはずもなかった。
「ほらほら、どいてどいて」
厳めしい顔をした警察官が、人並みをかきわけてジェリー達の元にやってくる。
「はわぁっ!!」
理由も聞かずに肩をふん掴まれて、ジェリーが情けない悲鳴をあげる。
屈強な男に力ずくでこられたら、ただのたぬきであるジェリーにはひとたまりもない。
「はいはい。詳しい話は交番で聞くからね~」
ろくな抵抗もできないまま、ずるずるずる、と地面を擦る靴底の音だけがむなしく響く。
「わわわ、私はっ、何にも悪くないんだってぇぇ~~!!」
必死でそう訴える涙混じりのジェリーの声が、ビルとビルの合間を縫って、両替町中に響きわたった。
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