第2章 予想外の出会い

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 思わず声を荒げかけたその時、すぐ横の車道に急ブレーキの音が響き渡り、美子の抗議の声を打ち消した。思わず何事かと彼女が目を向けると、五十代ほどに見えるダークグレーのスーツ姿の男性が慌てた様子で運転席から降り立ち、車を回り込んで歩道に駆け寄る。 「奥様! どうなさいました!?」 「ああ、掛橋、大変なの! こちらのお嬢さんの着物に、ソフトクリームが付いてしまって!!」  狼狽したまま訴える老婦人に、掛橋と呼ばれた男は深々と溜め息を吐いてから、冷静に指摘した。 「ですから座ってお食べ下さいと申し上げましたでしょう、と苦言を呈したい所ですが、まずはそのコーンから手をお放し下さい。こちらの方のお着物への、処置ができません」 「あら、そう言えばそうだったわ」  軽く目を見開いて女性が手を離すと、掛橋は無言のままコーンを取り上げた。そのやり取りを聞いた美子は、怒りも忘れて半ば呆れ返る。 (そうだったわ、じゃあ無いでしょうが。何? このテンポのずれたおばあさん。物凄い深窓のおばあちゃんなの?)  掛橋はそのコーンを女性に渡すと、次にポケットから皺一つなくアイロンがけされて折り畳まれた白いハンカチを取り出し、それを広げながら美子にお伺いを立ててきた。 「お嬢様、失礼致します。取り敢えずクリームを取って、汚れた所を拭いてみますので」 「あ、はい……。宜しくお願いします」  取り敢えずこのままでは歩けない事は分かっていた為、美子は素直に頷いた。すると掛橋は、まず盛り上がっているクリームを全部、器用にハンカチに包み込む様にして取り去り、自分の主人らしき女性に渡した。それで終わりでは無く、更に同様のハンカチを取り出し、少しづつ軽く叩いたり拭き取って、染みを取り去って行く。 (ええと……、この人、ハンカチを何枚持ってるのかしら?)  次々と白いハンカチを取り出して四枚目を使い終えたところで、掛橋は美子に向かって深々と頭を下げて謝罪してきた。 「奥様が大変ご迷惑をおかけした上、失礼致しました。取り敢えず汚れを拭き取ってはみましたが、染みになってしまうと思います。こちらで弁償をさせて頂きたいのですが」  真摯にそんな事を申し出られて、美子は却って恐縮した。 「いえ、そんな大層な物ではありませんし、結構です。母の形見の古い着物ですし」
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