第3章 上品で豪快な女性(ひと)

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 加積夫人との出会いの直後、名前だけは聞いた事がある有名な老舗呉服店から電話で連絡を受けた美子は、自分の都合がつく日時を指定し、当日女性二人を迎え入れた。 (二日で出向いてくるなんて、早いわね。さすが老舗と言うべきか、加積さんがお得意様と言う事かしら?)  二人を座敷に通し、座卓に向かい合って座りながらお茶を出すと、恐縮気味に頭を下げた年配の着物姿の女性が、自己紹介をしつつ名刺を差し出してくる。 「本日はお時間を頂き、ありがとうございます。加積様からの依頼で《華菱》から参りました、鹿嶋と申します」 「採寸担当の桐原です」 「こちらこそ、宜しくお願いします」  若いスーツ姿の女性も隣に倣って頭を下げてから名刺を差し出してきた為、美子は反射的にそれらを受け取ってから、素朴な疑問を口にした。 「私も着物は何度も作っておりますが、毎回店舗に出向いておりまして。今回の様に顧客先に出向く事は、結構有るのですか?」 「確かにあまりございませんが、それぞれのご事情もおありなので、お話があればこちらから出向いておりますので、お気遣いなく」 「はあ、そうですか」  笑顔で受け流した鹿嶋に美子が曖昧に頷くと、一口お茶を飲んでから茶碗を置いた桐原が、さり気なく申し出る。 「それでは藤宮様。早速採寸をさせて頂きたいのですが」 「はい、構いません」  そうして立ち上がった美子と桐原は座卓から少し離れて、身丈や着丈、裄等の寸法を測り始めた。そして手際良く採寸した内容を、残さず手元のファイルに記入し終えた桐原が、笑顔で礼を述べる。 「ありがとうございました。それでは早急に加積様からのご依頼通り、仕立てに入りますので」 「宜しくお願いします」 (思いがけず面倒な事になっちゃったけど、これで取り敢えず一件落着ね)  安堵しながら座布団に元通り座った美子の向かい側で、鹿嶋と桐原が笑顔で会話を交わした。 「縫製担当者に、至急寸法を連絡します」 「ええ。久々の大仕事だもの。店中盛り上がっているしね」 (そういえば加積さんは、どんな着物を仕立ててくれるのかしら? 期待半分不安半分ってところね。でも身に着けていた物は上品かつ最上級品だったし、そんなに変な事にはならないと思うけど。それに久々の大仕事って……)  そこで美子は、何気なく問いを発した。 「鹿嶋さん。一つお尋ねしても宜しいでしょうか?」
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