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「そう?」
「そうよ! だって美子姉さんは小さい頃から運動神経抜群で毎年リレーの選手だったし、サッカーだって上手だし! 私、小さい頃よく玄関の僅かな段差で転んで顔を打ってたけど、美子姉さんは同じ所で躓いても、華麗に前転して怪我した事なんか無いって美恵姉さんが言ってたし!」
力一杯見当違いな主張をしてくる美野に、美子は思わず遠い目をしてしまった。
「そういう意味じゃなくて……」
「え?」
「ううん、何でもないわ」
溜め息を吐いて力無く首を振った美子に、美野は真顔で申し出た。
「美子姉さん、傷口を消毒して絆創膏を貼ったら休んでいて。後は私が作るから」
「でも……」
「良いから。偶には任せてくれない?」
美野には珍しく押しの強さを発揮して訴えてきた為、何となく気が乗らなかった事もあって、美子はありがたくその申し出を受ける事にした。
「じゃあ、お願いしようかしら」
「ええ。ちゃんと作るわ」
そして台所から出て行く美子を見送った美野は、思わず「本当に、大丈夫かしら?」と呟いたところで、美子と入れ違いに美恵が顔を出した。
「あら、姉さんは?」
「それが……、ついさっき、包丁で指を切ったの」
それを聞いた美恵が、姉の珍しい失態に顔を顰める。
「指を切った? 姉さんが?」
「酷くは無いんだけど調子が悪そうだから、今日は私が作る事にしたの。もう少し待っててね」
「分かったわ」
そこで美恵は難しい顔をしながらも、大人しく自室へと向かった。
一方、半ば台所を追い出された形になった美子だったが、予想外に空いた時間を使って深美の遺品を整理し、夕食の席でそれについて妹達に告げた。
「皆、聞いて欲しいんだけど」
「何? 姉さん」
「お母さんの四十九日も済んだし、叔母さん達に声をかけて形見分けをしようと思うの。だからその前に皆で欲しい物をより分けておこうと思って。さっき座敷にお母さんの遺品をある程度纏めておいたから、今日は全員早く帰って来ているし、後から確認しない?」
その提案に妹達は一瞬驚いた顔付きになったものの、すぐさま賛同した。
「それもそうね。叔母さん達も欲しい物があるかもしれないし」
「じゃあ食べ終わったら、早速見てみましょう」
しかしそこで、美幸が心配そうに確認を入れてくる。
「美子姉さん……。あの人達、呼ばないよね?」
それだけで誰の事を指しているのか分かった美子は、語気強く断言した。
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