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「うん、そうだよね?」
「簪よね」
「何?」
「何でも無いわ」
そのままそこで話は終わりになり、何となく居心地が悪いまま美子は夕食を食べ終えた。
その後全員で深美の遺品を揃えておいた部屋に移動し、多少の揉め事はあったものの、最後には全員納得して形見分けを済ませて解散となったが、自室に戻りかけた美子の背後から声がかけられた。
「姉さん。話があるんだけど」
「ええ、構わないわ」
真剣な顔つきの美恵に、美子は何事かと思いながら二人で居間へと移動し、ソファーに向かい合って腰を下ろした。すると美恵が早速本題を切り出す。
「単刀直入に聞くけど、この前の俊典さんの騒ぎ絡みで、江原さんと何かあったわね?」
その問いに、美子は素っ気なく答えた。
「あった事はあったけど、取り敢えず一件落着したわ」
「一件落着ね……。姉さんを見てると、とてもそうは思えないんだけど?」
「気のせいよ」
「本当に?」
美恵が若干目つきを険しくしながら探る様な視線を向けてきた為、美子は伏し目がちになりながら、控え目に言い出した。
「その……」
「何?」
「ちょっと美恵の意見を聞かせて欲しいんだけど……」
「言ってみて」
かなり迷う素振りを見せていた美子だったが、ここで急に何かを思い切った様に、すらすらと喋り出した。
「普段傲岸不遜で、人の質問をはぐらかしたり神経を逆撫でする言動をしていても、嘘だけはついた事が無い人に対して、かなり疑っている様な言い方をしてしまったんだけど……」
「それで?」
そのまま黙り込んでいる美子に腹を立てたりせず、美恵は冷静に姉の話の続きを待ったが、美子は急に口調を変えて言い出した。
「……たった今、思い出したわ」
「何を?」
困惑する美恵を半ば無視して、美子は独り言の様に続ける。
「あいつ、平気で嘘をついてたじゃない。お母さんと出会ったのは、改めて交際を申し込みに来て以降だって言ってたのに、実は最初に家に出向いた以降から交流があったって、後から自分で言ってたし。……何だ。今まで気にして損したわ。美恵、話はもう聞かなくて良いから。それじゃあ」
そんな事を言うだけ言って素早く立ち上がった美子を、美恵は慌てて引き止めた。
「ちょっと! 自己完結して、勝手に話を終わらせないで! 大体、こっちの話は終わって無いのよ!?」
「そうだったわね。何?」
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