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さすがに兄にワタルを紹介するのはまだなんとなく気恥ずかしかった。
「ひどい由愛ちゃん…お兄様を部屋に押し込むなんてっ!」
部屋に戻された圭介はいじけたように由愛を見上げた。
しかし、由愛はそんな兄には構わずつかつかと歩き出す。
「それじゃ、行ってきまぁす!」
「気をつけてね~」
圭介は出ていく由愛の背中を見つめながら小さく手を振った。
なんとなく、自分の手から離れていく由愛に寂しさを感じながら。
「龍王君、おはよう!」
由愛は塀に寄り掛かって待っていたワタルに元気よく声をかけた。
「あぁ」
どうやら彼は朝が苦手のようでちょっぴり眠そうな表情で大きな欠伸をした。
そんな彼の今日のいでたちはジーンズに黒のパーカーとラフな格好だ。
当たり前のことなのにいつも制服姿ばかり見ているせいか私服というのが何とも不思議だった。
私服姿のワタルは…ちょっとだけいつもより幼く見えた。
「行くぞ」
そういってワタルはさっさと歩き始める。
「何か観たいのあるか?」
「ううん、特には…」
「そう」
映画館に着くとワタルは迷わず一ヶ所に歩いていく。
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