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そう話したワタルは捨てられた子供のように悲しい目をした。
まさかワタルがそんな家庭環境だったなんて考えたこともなかった。
まだ中学生だというのにこんなにも辛い思いをたくさんしてきたんだと思うと由愛は胸が締め付けられる。
ワタルに比べたら自分はなんて恵まれていて幸せなのだろう、と思う。
由愛は何の変哲もない普通の家庭で育った。
特に問題もない平和な家庭だ。家族の仲だっていいし不満はない。
お金持ちではないけれど必要なものはいつもあってそれほどお金に困ったこともなかった。
由愛にとっては生まれてからずっとそれが当たり前だった。
みんなそんなもんだろうと思ってた。
だけど、そうじゃなかったんだ。
『普通』であることは幸せなことなんだって初めて知った。
「…ずっと辛い思いしてきたんだな」
圭介も由愛と同じようにワタルの話を聞いて少なからずショックを受けたようだった。
ワタルが不良連中と付き合ったのも納得できた。
「確かに…苦しい時期もありました。でも…今は圭介さんが思ってるほど辛くなんかないですよ」
「どうして?」
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