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何と言えばいいのか…
普段は人なつこくて気さくな圭介だが、ステージに立つ圭介は物静かでクールな印象に見えた。
まるで別人のよう。
本当にあれが圭ちゃん?
隣にいた由愛もその姿に少々驚いていたようで目を丸くしていた。
だけどオレはそんな圭ちゃんに強く惹き付けられる感覚も覚えた。
演奏が始まるとたん視線を外せなくなる。
なぜだろう、目が離せなかった。
そして身体中に衝撃が走る。
奏でる音はお世辞にもうまいと言えるレベルではない。
まだまだ初心者の彼ら。
それでも…オレには文句なしにかっこ良く見えた。
それぞれが音楽を楽しんでいるのが伝わってくるから。
そんな彼らが眩しかった。
そして羨ましくもあった。
だってオレには夢中になれるものなんてなかったから。
オレには何もない。
それが酷く虚しかった。
しかし、オレにも見つかった気がする。
自分がやりたいと思えること。
「オレもギター始めてみようかな…」
「えっ?」
ワタルがボソッと呟いた一言を由愛は聞き逃さなかった。
そして由愛は笑顔で言う。
「ワタル君ならあっという間にお兄ちゃんより上手くなっちゃうね」
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