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しかし、電話口から聞こえた声は聞きなれた由愛の声ではなかった。
「ワタル」
ワタルの名を呼んだのは何故か圭介だった。
どうもいつもと様子が違う。
「えっ…圭ちゃん…?どうしたの??」
なんだか妙な胸騒ぎがした。
「あのな…由愛が事故で…死…」
圭介は言葉につまってしまう。
その声は微かに震えていた。
「…死んだんだ…」
「えっ…?」
その言葉を聞いた瞬間、何も考えられなくなった。
頭が真っ白になっていくのを感じた。
今、何ていった?
電話を持つ手が震える。
嘘だ。
嘘に決まってる。
「悪い冗談ならやめてよ。そんなわけ…ない…だろ?」
嘘だと言ってほしかった。
いつもと違う圭介の様子にリアリティーも感じていたのに…信じたくはなくて。
「冗談なんかじゃないんだ…オレだって冗談だって思いたいけど…でも」
頭では言葉の意味を理解している。
だけど、心はそれを拒否する。
…信じたくない。
きっと圭介が自分をからかっているのだと思いたかった。
隣で由愛がいつもみたいに笑っているのだと信じたかった。
悪い夢なら覚めてほしい、と願う。
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