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 世の中には関わってはいけない類の人物たちがいる。それは何も犯罪者や薬物中毒者といった危険な人物とは限らない。  ここ桐生学園高等学校の中にも、そんな奴らがいた。そしてそいつらが集う場所というのが決まっている。北館と呼ばれる、ちょっとじめっとした空気の漂う校舎の二階だ。その隅にある化学教室が問題の場所である。 「なるほど。これが毛のない理論か」  怪しい呟きを漏らしているのは、小難しい本を開く男子生徒だ。眼鏡を掛けていかにも勉強が好きという雰囲気を醸し出している。しかし化学教室だというのに実験する気がない。この彼こそ問題の関わってはいけない奴らの筆頭、ではなく正しくは科学部部長の上条桜太である。現在高校二年生の見た目は真面目な生徒だ。 「桜太。その毛のない理論って何?」  横にいた女子生徒が興味に負けて訊いた。訊いてはダメだと必死になっていたが好奇心が勝ってしまったのである。彼女もまた関わってはいけないといわれる科学部の部員で岩波千晴という。  千晴は長い髪が腰まである、可愛らしい顔立ちの女の子だ。しかしそこは科学部の部員。目の前に広げられているのは元素の周期表である。少し話すまでもなく変わっていることは納得できてしまうのだ。 「よくぞ聞いてくれた。毛のない理論とはブラックホールの特徴を言い表した言葉で、ジョン・ホイラーという物理学者が編み出したものなのだ」  立ち上がって興奮気味に叫んだ桜太だが、千晴の反応は無かった。それどころか冷たい視線を送られる。 「あれ?」 「やっぱりブラックホールだったか。このブラックホールバカ」  桜太の後ろの席を陣取っていた男子生徒が冷たく突っ込んだ。彼の名前は石橋楓翔。そんな彼ももちろん科学部の一人だった。
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