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「いや、当たり前だろ。僕の言っている仮面はここの事を言うんだよ」
慎二が自分の胸のあたりを親指で指す。
「心臓……?」
「いや、心臓ではない。心だ」
今日の慎二はいつも以上に難しい話をする。玲子にはわからないことだらけで、そろそろ頭がパンクしてしまいそうだ。
「ココロ……。ねぇ! 仮面をつけたらどうなるの? またいつもの慎二くんに戻るの?」
「戻るよ。でも、本当は今みたいにこうやって素顔のままでいられるのなら、いたい」
少しだけいつもの慎二に戻った気がした。そして、玲子の中でどれが本物の慎二なのかだんだん分からなくなる。いつも物静かな慎二が慎二なのか、今の慎二が慎二なのか。
「じゃあ、どうして仮面なんて被るの?」
玲子のその言葉に慎二は空を見上げる。何か上にあるのかと、玲子も見上げるが、そこにはいつも通り太陽と雲が仲良く並んでいる。
「みんな自分が幸せになるために被るんだよ」
慎二は少し寂しげな表情をしていた。どうして、幸せという言葉を言っているのに嬉しそうではないのか、玲子には分からない。
「私も被れば幸せになれる?」
「ああ、なれる」
ちょっぴり嬉しかった。だって、今の今まで幸せを感じたことがなかったのだから。いきなり、発達障害というレッテルを貼られ、化け物と言われ、罵られ、殴られ、不幸だった。だから、今の状況から変われるのなら変わりたい、そう思った。
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