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家族会議の口火を切ったのは、父親だった。
「玲子大事な話がある」
いつになく真剣な表情の父親に玲子は少し不安を抱く。また、何かやってしまったのかと思ったからだ。
玲子は俯きながら、父親の目の前に座る。
実はな――お前は人間ではないんだ。
いつも真面目で冗談をあまり言わない父親が珍しく冗談を言ったのかと、玲子は驚く。でも、その表情はいつもと変わらない真剣なものだ。玲子は父親の言葉に返答することなく黙って俯く。父親も、玲子の姿をジッと見つめ、口を開かない。
玲子は、落ち着かない気持ちを紛らわそうと体勢を変えては、また変えるというのを繰り返す。
あの日――お前は一枚の模造紙に絵を描いたんだ。
そう父親が言うと、スーっと襖を開けて母親が模造紙をもって入ってきた。そして、母親が模造紙を目一杯広げ、玲子に見せた。
「綺麗……」
あまりの衝撃に、自然と言葉が飛び出る。
そこには、模造紙一杯に描かれた深海だった。玲子が一番驚いたのは、その絵の画力だ。とても、自分自身が筆を奮って描いたものとは思えない。繊細なタッチで、襖の隙間風によって模造紙が少し揺れているせいなのか、まるで深海の底から見上げているような景色だった。
玲子の鼓動は、はち切れんばかりに動いていた。
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