12人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
理解しただろう? お前は化け物だ。だから、明日病院で体の隅々まで診てもらえ。
父親はそれだけを言って、部屋を出て行った。父親の後を追いかけるように母親も足早に出ていく。
襖が閉まるトンという音を聞いてから、あの時と同じように模造紙を広げる。もう、あれから三年が経った。
「本当に綺麗な絵……」
確かに、小さい頃から落ち着きがなく、手がかかる子だねとよく言われた。その言葉は玲子の中で愛情表現だと思っていた。でも、今考えるとあれは愚痴なのだろう。
もし、家族会議で告白された事実が本当なら、異常な集中力は小学二年生から今の五年生までの長い付き合いである。それまでに、どれほどの人たちを傷つけたり、迷惑をかけたり、してきただろうか。
足元にある絵を見ていると乱れに乱れた心が洗われるように少し落ち着く。
玲子の集中力は、周囲の人間を遠ざけるほどのものだ。最初に自覚させられたのは、学校の図工の時間だった。絵具を使って、自分の好きな絵を描いてみようというお題に、あの時のような異常な集中力を発揮したらしい。らしいというのは、誰かに気づかせてもらうまで全く自覚がないのだ。
それが、ものすごく恐ろしい。
だから、両親もこの玲子の集中力を”化け物”と呼んだ。
化け物は、玲子の身体に突然取り憑く。取り憑かれた玲子のことをクラスメイトたちは”鬼”と呼んだらしい。担任のマヤ先生に何度も肩を叩かれ、名前を呼ばれて、やっと玲子の身体から化け物が抜ける。
そして、意識がはっきりすると、悲惨な自分自身の姿を見て玲子は叫ぶのだ。
最初のコメントを投稿しよう!